腸のふしぎ  からだの中の外界

  上野川修一  講談社ブルーバックス  平成25620

 腸という言葉で真っ先に連想するのはホルモン焼きである。味と値段は結構だが、なかなか歯ごたえがありすぎて噛みきれない。食べ物としても厄介だし、変哲もない肉の筒という印象であった。そんな印象が破られる本である。

 単細胞の受精卵が分裂して桑の実のような状態になり、一方の端からくぼみができ(これが最初の口)、それが深くなって終に本体を貫通するトンネルになる。こうしてまず出来るのが腸である。ちくわのような形、なまこが正しくそれである。脊椎動物の進化との関係で見ると、最下層のヤツメウナギでは胃や腸の区別がなく一本の管で消化菅ができている。なまこに背骨を付けただけのような代物だ。魚類になると胃と腸の区別が出てくる。大腸らしきものが出来るのは両生類以上のクラスである。

 腸は消化吸収器官であって、6メートルほどの小腸と、1メートル強の大腸からなる。小腸の入口部分を十二指腸といい、そのあと空腸、回腸、盲腸と名付けられ、大腸に至る。口から入った食物は、歯で咀嚼され、胃に入って酸性の胃液の中でモミクチャにされて粥状になる。酸はタンパク質を分解されやすいように変質させるのだという。面白いことに食べ物が移動することにより、これをセンサー細胞が感知して、噴門や幽門を開くのだそうである。よくできている。そして胃や腸が消化酵素を分泌するのも食物の搬入を感知して生じる。一滴たりとも無駄にはならないようである。食物の消化(分解)は 一部は口や胃でもなされるが、その大部分は小腸の中である。小腸の管壁には各種の分泌細胞があって、分解酵素を分泌する。そしてタンパク質はアミノ酸に、糖質はブドウ糖に、脂肪は脂肪酸に分解される。分解された成分は、管壁の吸収細胞から体内に引きずり込まれ、反対側にある毛細血管や、リンパ菅で体の各部に運ばれる。大腸ではあまり消化吸収はなされないようで、主にウンチの貯め場所のような感じである。そこで腸内菌が小腸に比べて三桁くらい多くなる。大腸で吸収されるのは、残存の水分と腸内菌で分解された一部糖質だ。

 腸内での食物は蠕動運動で移送される。この運動は、輪走筋と縦走筋の二種類の筋肉によって消化速度に合わせて食物を下流側に送るのである。ホルモン焼きが歯ごたえの有りすぎるのは、この二種類の筋肉がタテヨコに繊維を並べていることによるものだ。簡単に破れることはないようにできている。

 腸内は動物にとっては外界であるから、その中にはいろんな病原体が入ってくる。唾液や胃酸でも死ななかった病原菌が小腸に入ってくると、センサー細胞によって感知され、これに対する抗体が作られる。この抗体が病原体をやっつけるのだというが、そのメカニズムは私にはよくわからなかった。ただ抗体が作られるのに一週間ほどかかるというのは遅すぎるような感じがしないでもない。このあたりは複雑な生理のようである。食物アレルギーというのも、ある食物を、病原体と勘違いして抗体を作ってしまうことからくるものだそうな。子供に多く年取ればだんだんと改善されていくようである。

 大腸には多くの腸内菌が生息している。1000種類以上でその数100兆くらい、重さは約1キロだそうだ。主なものは日和見菌と善玉菌。日和見菌は体調が悪くなると悪さをする菌だそうだ。善玉菌は主にビフィズス菌と乳酸菌。善玉菌は宿主と共栄状態でそれが増えると免疫力がますという。悪玉菌は勿論免疫システムの対象とするところである。大腸菌o157などは牛などの腸に住んでいるそうだが、この時には悪さをしない。人の腸内で毒素を出して腸管を出血させるのだそうである。牛にとっては善玉なのであろうか。ちなみに牛の胃にはたくさんの菌が生息していて、これが牛の食べた物を食べており、牛はその細菌を栄養にしているのだという。こういうのも共生というんだろうか。

 腸はセカンドブレインと言われるほど神経細胞が発達しており、しかもそれが脳から独立して、自己制御しながら活動する。脳よりも余程先輩なんだろう。ただ脳が感じたストレスには弱い。ストレスは動物の敵である。放射線より余程発がん性は高い。