永続敗戦論  戦後日本の核心」

  白井聡  太田出版  平成26121

 ほぼ一年半ぶりに書く。この間本を読んでなかったわけではなかったが、面倒くさくなったためである。

最近、日本と周辺の国々の関係が非常にぎくしゃくとしている。そしてかなりの出版物が、この傾向を煽っているようなのである。

 

著者によると、日本の対外姿勢は、国民や周辺国に対しては表向きは敗戦を認めない、戦争責任ということも認めない一方で、戦勝国アメリカに対しては完全なは敗者の姿勢をとり続けているのだという。かつて、明治憲法下で天皇制は、天皇その人に対しては立憲君主として規定し、一方国民に対しては天皇は万能の主権者として振舞うように設定されていたのと同じように二重構造となっているのだ。なぜか。

ズバリ言ってしまえば、戦後の日本の支配者は、戦前からの支配者の末裔だからだ。早い話、安倍晋三は岸信介の孫である。血縁が政治的立場を同じくするとは限らないが、あの戦争は間違っていなかったとか、英霊たちのおかげで今の日本の繁栄があるとか、その英霊に敬意を払うのが何が悪いのかとか、結局、戦争に対する反省など全く見られないようである。何故、そうなってしまったかは、歴史のいきさつからそうなったとしか言えないのであろうが、冷戦がはじまり、アメリカにとってはソ連に対抗するためには、旧日本の体制をそのまま活用するのがある意味手っ取り早かった体とは言えるだろう。かくして、対日軍事裁判は途中で打ち切りになり、七名のみが絞首刑になっただけで、岸らは釈放された。ただアメリカに二度と立ち向かえないようにとの希望から設けられた憲法九条が、逆にこの問題に足枷となったのは皮肉であろう。ただこの支配層は、アメリカ以外の国に対しては力み返るのであるが、アメリカに対しては借りてきた猫になってしまう。沖縄の基地問題にしても、日本の制空権の問題にしてもアメリカの意向に反しては何も言えないのである。そういえば、社会党の委員長だった村山富市という人が、自民党と連立して総理大臣になったとたん、「安保条約賛成」になったのには、事の当否は別として日本中がどよめいたのを覚えている。

国の外交方針は、道義とか感情によって決まるものではない。国に、というか、国の支配層にとって都合がいいかどうかだけで決まるのだという。この点は北朝鮮の現状を見ればよくわかるだろう。そう言う意味ではあの国も例外ではないのである。ただ、北朝鮮の場合には国の支配を失えば、自分たちの命も失うことになるから必死なのである。アメリカにとって日本に対する政策は、①戦勝国対敗戦国、②同盟国、そして現代では③どうでもいい国と変わってきているのだろう。③の意味は中国の方がアメリカにとって大事な国になってきたからではないのか。市場としても豊かな経済大国なのである。アメリカにとって、安く買えてたくさん売れれば十分なのではないか。例えば、尖閣の問題でも、「尖閣は日米安保の適用範囲」 と言っておきながら、領土問題には中立というのがアメリカの立ち位置なのである。これでは、尖閣問題で日中戦争が始まってもアメリカはとても助けてくれるとは思えないのである。せいぜいアメリカから弾薬を買ってくれればおんの字なのではあるまいか。

尖閣のついでに考えてみると、領土問題というのは、全く不毛の土地でも、政権が国民の血を流してまで守りたがる問題なのだそうだ。しかし、それまでは、不毛という理由で、誰も関心を払わなかったようなところこそが問題になる。尖閣や竹島などはそうであろう。尖閣についてみれば、明治のはじめ、内務卿の山県が「国標建設」を諮ったところ、井上外務卿が「清国を刺激するからダメ」と言われて引き下がっていることからすると、この明治18年の頃には当然に日本の領土という認識があったわけではないようである。それが、日清戦争の終わりごろになって、有利な戦況を背景に「日本の領土とする」閣議決定で編入されたようである。そして日本の終戦処理によれば、日清戦争以後に獲得した領土は放棄するということになったのだそうだから、そう言う意味では尖閣は「問題あり」の領域なのであろう。田中角栄と周恩来の間でも棚上げの合意がなされていたようだ。それをどこかの浅はかな知事が、出過ぎた真似をするものだからこじらせてしまったのだろう。

 ことほど左様に日本の実情は敗戦国なのであり、アメリカは日本に対しては戦勝国としての地位を放棄していないのである。そしてできるだけこの切り札を利用して自国の利益、都合を図ろうとする。これは、日本人が先の戦争のカタを自分たちでつけられなかったことで舐められているのだろう。そして日本の支配層にしてみれば、自分たちは戦犯の末裔だという引け目があるのだろう。これがアメリカに対する卑屈さの原因なのだろう。その実像を隠すために、敗戦と言わず終戦と言いふらし、周辺国には強く臨む。それに与しないものには「愛国心に欠ける」と自国民まで恫喝するのであろうか。